クリストファー・イシャウッドの小説の映画化「シングルマン」がすばらしかったトム・フォードが映画化したというので、読みました。
20年以上前に離婚した元夫から送られてきた小説の原稿を、今は別の男性と家庭を築いているスーザンが読んでいくという内容。
小説の内容は、大学教授が妻と娘を惨殺され、自責の念と復讐心にさいなまれ、やがて警察から犯人についての連絡が、というミステリー仕立ての物語。
スーザンは作家志望だった元夫を経済的に支えるために博士号をとって英文学の教授になることをあきらめ、カレッジの英語教師になったが、元夫の書く小説を英文学者として批判した過去があり、それが離婚の原因の1つだった。
小説を読むうちに、スーザンは、小説の主人公トニーが巻き込まれる暴力と、それに対してなすすべのないインテリの限界に、自分自身を重ね合わせていく。彼女もまた、現在の夫に対し、不満と怒りを抱いているからだ。
作中小説「夜の獣たち」は一見、荒っぽいサスペンスものに見えるが、暴力に対して躊躇してしまうトニーの苦悩がミステリーというよりは純文学のようだ。
そして、それを読むスーザンの部分が、殺人のような異常な事態がない日常にも暴力の問題が潜んでいることを明らかにする。
この作品の暴力に関するテーマ、暴力に対する知性の無力のテーマは非常に複雑で、いろいろな解釈が可能だと思う。
映画では元夫とトニーをジェイク・ギレンホールが二役で演じているようだが、フォードの映画に期待したい。
なお、小説の原題は「トニーとスーザン」だが、映画は作中小説の「夜の獣たち」がタイトルになっている。
夜の獣たち(夜行性動物)もいろいろに解釈できる。ミステリーやメタ文学の枠を超えた深い作品だ。

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ミステリ原稿 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ 1647) 新書 – 1997/4/1
オースティン ライト
(著),
吉野 美恵子
(翻訳)
- 本の長さ409ページ
- 言語日本語
- 出版社早川書房
- 発売日1997/4/1
- ISBN-10415001647X
- ISBN-13978-4150016470
商品の説明
内容(「MARC」データベースより)
別れた夫が書いた小説の原稿を受けとった平凡な主婦のスーザン。20年もたった今になってショッキングな内容の原稿を送りつけた前夫の真意とは? そしてスーザンを襲う不安の正体とは?
登録情報
- 出版社 : 早川書房 (1997/4/1)
- 発売日 : 1997/4/1
- 言語 : 日本語
- 新書 : 409ページ
- ISBN-10 : 415001647X
- ISBN-13 : 978-4150016470
- Amazon 売れ筋ランキング: - 1,105,800位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
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2012年7月22日に日本でレビュー済み
ある日突然、前の夫から小説を書いたので読んでもらいたいと頼まれた主婦がその小説を読み始めたら・・・という小説。
作中作の小説が妻子を殺された大学教授の復讐を巡る葛藤劇で、主人公の主婦はその小説に秘められた前の夫の狙いは何か、果たして読むだけを目的に送られてきたものなのか思索するという展開のお話でした。
ここで作中作の主人公を普通に小説の主役、作中作を読む主婦を我々読者のメタファーとすると、ただ単純に残酷な小説を読むだけでいいのか、或は残酷な小説を娯楽として読んでいいのかという推理小説批判ととれるように思えました。そしてその批判はこの小説を読んでいる私やあなたを直撃しているように感じました。主人公の主婦の読後の葛藤もそのように思えましたがどうでしょうか。
推理小説としての衝撃度や面白さにはやや欠けますが以上のような観点を踏まえて星三つにしましたが、人によっては喰い足りないかも。
凄く知的な印象を受けた作品でこの著者の他の作品も読んでみたくなりました。機会があったらもっと紹介してもらいたいですね。
作中作の小説が妻子を殺された大学教授の復讐を巡る葛藤劇で、主人公の主婦はその小説に秘められた前の夫の狙いは何か、果たして読むだけを目的に送られてきたものなのか思索するという展開のお話でした。
ここで作中作の主人公を普通に小説の主役、作中作を読む主婦を我々読者のメタファーとすると、ただ単純に残酷な小説を読むだけでいいのか、或は残酷な小説を娯楽として読んでいいのかという推理小説批判ととれるように思えました。そしてその批判はこの小説を読んでいる私やあなたを直撃しているように感じました。主人公の主婦の読後の葛藤もそのように思えましたがどうでしょうか。
推理小説としての衝撃度や面白さにはやや欠けますが以上のような観点を踏まえて星三つにしましたが、人によっては喰い足りないかも。
凄く知的な印象を受けた作品でこの著者の他の作品も読んでみたくなりました。機会があったらもっと紹介してもらいたいですね。