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サービスの天才たち (新潮新書 42) 新書 – 2003/11/1

5つ星のうち3.9 41

商品の説明

抜粋

「札幌?」
「ええ、一泊だけですが」
「たとえ一泊でも、そりゃあ下川原さんだ。下川原さんしかいない。他のには乗れない。他は全部ダメ。ダメ、ダメ」
 一○年以上も前、そう断言したのは永田さんだ。永田さんの仕事は昔で言えば興行師、今はコンサートイベンターという。ユーミン、ドリカムを始め、J‐POPミュージシャンのコンサートを企画制作する会社の社長で、社団法人全国コンサートツアー事業者協会という業界団体の会長もやっている。永田さんは仕事柄、全国のコンサート会場に出かけるので、各地のホテル、レストラン、バーといった場所にすごく詳しい。スターに対する気配りと町の情報のふたつを持っていなければやっていけない仕事なのだ。なかでも彼が気を遣うのがスターを駅や空港からホテルまで送迎する車、そして運転手である。
「運転がうまくて誠実。しかもミュージシャンをリラックスさせる人じゃないと頼めない。気のきかない運転手だとミュージシャンを怒らせたりする。すると、その日のコンサートはぶち壊し」
「なるほど、で」
「そうそう、北海道は安心なんです。下川原さんがいるから。あの人がいれば、僕が迎えに行かなくても安心。ユーミンは札幌のコンサートはいつも下川原さんですよ。ミュージシャンだけじゃない。運輸大臣(当時)だって道庁の車じゃなく、下川原さんに頼むくらいなんだから……」
 永田さんは、野地さんも絶対、乗ってみたらいいと勧めてくれた。そして、ふふと笑いながらつけ加えた。
「何しろ、あの横山やすしさんを乗せても大丈夫だったんだから」
 最後の言葉に説得力を感じたので、私は永田さんから下川原さんの電話番号を教えてもらい、千歳空港(当時)まで迎えに来てもらうことにした。
 雪の降る日、下川原さんとは到着出口のゲートで会った。眼鏡をかけて痩せた下川原さんは、私の名前を書いたボードを持ち、無表情に立っていた。印象の薄い人に見えた。しかし、私があいさつすると笑った。笑うと歯ぐきが見えた。歯ぐきを見て、あらためて思ったのはどちらかといえば頼りない感じのキャラクターだということだ。車に乗り込むと、あったかいおしぼりを渡してくれたが、特別に愛想があるわけではない。
「おつかれさまでした。札幌市内でしたね」というと、下川原さんは車をスタートさせた。それきり、何もしゃべろうとしない。運転もべつに普通だった。私は尋ねてみた。
「横山やすし、乗せたんですか」
「いえー、私は横山先生は乗せたことはありません。でも永田さんに頼まれて吉本興業の方をご案内したことはあります。はい、ユーミンさんは何度か……」
 彼はあくまで取材だということを前提に、それまで乗せたことのある客について話を始めた。なかには有名なスターが何人もいた。国会議員もいた、大臣もいた。運輸大臣は三塚博だった。そして、北海道に来る度に彼を指名した最大の顧客は亡くなった小佐野賢治だとわかった。何千台とタクシー、ハイヤー、バスを抱える国際興業のオーナーで帝国ホテルの個人筆頭株主だった小佐野賢治は、札幌では自社系列や関係会社の車を使わず、必ず下川原さんを指名していたという。
「あの方が泊まっているホテルの人に頼まれたんです。他の運転手がやりにくいというので……。ホテルからあの方が出てくると、従業員が全員、最敬礼なんですよ。あの方は乗られてすぐに、運転手さん、悪いけど、どこかめし屋へ連れて行ってくれないかな、って。ホテルに何日も泊まっていてまずい飯ばっかり食ってるから、あんたが行くめし屋へ連れていってくれないか……。それで私はご案内しました。私が食べる味噌汁と焼き魚、ホッケだったかな、カジカかな、そんな定食をご一緒しました。えらい喜びましたねえ。うまいうまい、おれ生まれて初めてこんなうまい飯を食ったと言ってました。それから、あの方が見える度に私はご一緒しました」
 それが下川原さんとの初めての出会いだ。以来、私は札幌に行くと、懐に余裕のある時に限り下川原さんに空港まで迎えに来てもらうことにした。有名人が彼の顧客だという点に魅かれたのではない。千歳から札幌市内までの間、妙に心地よかったからだ。なぜか彼の車に乗ると安心してしまうのだが、いったいそれは何が理由なのだろうか。

(「有名人御用達タクシー、接客の極意」より)

著者について

野地秩嘉 (のじ・つねよし)
1957(昭和32)年生まれ。美術展のプロデューサーを経て、ルポライターに。主な著書に『サービスの達人たち』(新潮OH!文庫)『キャンティ物語』『ビートルズを呼んだ男』(共に幻冬舎文庫)『食物語フードストーリー』(光文社)『スイス銀行体験記』(ダイヤモンド社)がある。

登録情報

  • 出版社 ‏ : ‎ 新潮社 (2003/11/1)
  • 発売日 ‏ : ‎ 2003/11/1
  • 言語 ‏ : ‎ 日本語
  • 新書 ‏ : ‎ 189ページ
  • ISBN-10 ‏ : ‎ 4106100428
  • ISBN-13 ‏ : ‎ 978-4106100420
  • カスタマーレビュー:
    5つ星のうち3.9 41

著者について

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野地 秩嘉
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